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100:貴方というひと
(鋼 ハボック×ロイ)
好きの数だけ愛が生まれる 好きだと自覚したのはついこの前。 でも言えるわけがない。 あの人は皆のモノであり、オレ個人がどうして良いモノでは無いのだから… 「あら、少尉。どうしたの?元気が無いわね」 隙きを付かれ、ホークアイ中尉に声を掛けられたことに当然のようにオレはビクつく。 「す、すんません!ちょっとばかし悩み事がありまして…」 オレが苦笑しつつもそう話すと、中尉は少しだけ微笑んで答えた。 「…それはもしかして大佐の事かしら?」 図星をさされてオレは俯いてしまった。 ここは大佐の執務室。嫌がろうにも聡い、中尉には気付かれてしまう。 さすが鷹の目…(笑) 「そう…。やっぱりそうなのね?大佐も罪な人ねまったく。」 中尉は溜息をついてそう呟いた。 現在大佐はブレダ達と共に外へ視察中だ。ここには居ない。 だからこそ話せる内容なのではあるのだが…。 「…オレはこのまま気付かれない方が嬉しいんです。あの人に気付かれて…もし大佐が…オレのせいで悩む姿を見たくはありませんから。思い続けられる…【この距離】が一番心地よいですし…」 ハボックの優しい眼差しに、リザは苦笑を一つ落とす。 「でもね少尉。もしも逆に相手が貴方に好意を持っているのだとしたら?貴方はどうするの?可能性というものに掛けてみようとはしないのかしら?」 リザの言葉にハボックは思わずリザを見つめる。 その瞳はとても穏やかだった。 だけど… 「…ですが中尉。オレは男です。そして男である前に軍人です。同姓同士でもと思って頂いたとしても、自分は戦いの中に身を置く一兵士です。あの人の横には並ぶことはできない。」 ハボックの苦しい胸の内にリザは顔を曇らせ、そして口を開く。 「ではもう、気持ちのあり方に対して私は何も口出ししないわ。でも…これだけは言わせてちょうだい。大佐は好きでもない一兵士を傍へ置くかしら?自宅へ招くかしら?自分の個人的な相談をするかしら?貴方に気があるからこそ…の行動では無いの?」 リザの事細かい私的に、ハボックは切なく破笑した。 「…中尉。有り難う御座います。随分目を掛けて下さって居たのですね。でも、もしも気持ちが通じたら、その後だって正直怖いッス。あの人の為、何時でも死ぬ覚悟は出来ている。でも思いを知られて、あの人が好きだと言ってくれたら…」 「…くれたら?」 「オレは…死に戸惑いを感じて動くことができなくなる。だったら…このままで…このままでいいんです。」 リザはハボックの大佐への深すぎる位の慈愛に感服してしまう。 「さすがね少尉。それはもう既に忠誠心を超えて、博愛心というか…アル意味下僕状態よ?それでも良いだなんて…」 感嘆の溜息にハボックは苦笑する。 「ははは…そうですね。端から見ればそうッスよね。でもオレはそれで幸せなんです。あの人の役に立てているのなら…」 目を細め大佐の机を眺めつつ、愛おしいように感情を和らげるハボックの横顔は、リザさえも魅入るほど精悍で格好良く映った。 「きっと貴方みたいな人間が純白と呼ぶにふさわしいのかも知れないわね。」 リザがひっそりと呟いたその言葉は、ハボックの耳まで届くことはなかった。 「あっ!そういえばオレ、まだ未処理の書類が有りますのでこれで失礼します。 すんません中尉」 ハボックはそう告げると、執務室を後にした。 取り残された中尉は本棚の横にあるドアをノックし… 「そこまで来ていらっしゃる事はわかっております。出てきては如何です?少尉はもう戻っては来ませんよ?」 キィ… すると、あまり使われて無いからなのか、ドアが鈍い音をたてて開いた。 そしてソコには… 「くすっ。あら、随分真っ赤な顔をされておいでで…。外はそんなに暑かったですか?」 顔面紅い色の照れた様な恥ずかしい様な何とも締りの無いロイの姿があった。 「アイツは…あんな事をずっと考えていたというのか?」 自問自答のように中尉に問うようにロイは口にした。 その台詞にリザは少し哀しそうに笑う。 「ええっ、そうだと思いますよ。大佐…貴方に負担を掛けたく無い。その気持ちからでしょうね」 「あのバカ犬…」 ロイは自分の椅子に荒々しく座ると中尉に声を掛ける。 「私も待つつもりで居た。でも、今回の事で一歩前に踏み出そうと思う。 …反対するか?中尉。」 ロイのその言葉にリザは静かに首を横に振る。 「私はいつだってハボック少尉の味方です」 もちろん大佐もですよ。 と優しく微笑んでロイにそう告げる。 ロイは嬉しそうに笑った。 「ありがとう、中尉。では、ハボックを呼んではくれないかな?決心が鈍らないうちに…。」 紅色がかったロイを横目に、リザはドアを閉めハボックの元へ向かう。 これから始まる明るい物語の為にと… |
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